聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
「あ、怒らないでくださいね。私が、やりたいって言ったんです。前に言ったじゃないですか。私の国では、やりたい仕事を選べたって。私、そこで料理人だったんですよ」
「……そうなのか?」
ぶわっと上がった怒りが急速にクールダウンする。アーレスの視界の端ではリドルがホッと胸をなでおろしている。
「ええ。食堂で料理を提供するタイプの料理人とは違うんですけど。新しいレシピを考案するのが仕事だったんです。今日は私が作ったんです。ぜひ食べてみてください」
「お、おお」
迫力に押されて、アーレスはそのまま椅子に座る。
(まだ手洗いはしていないが、イズミは女性の割に、手を清潔にとか上着は脱いでとかいうことには頓着しないたちなのだろうか)
アーレスは実家では、口うるさく母に礼を正すことを仕込まれたものだ。そのほかもろもろの『伯爵家の息子たるもの……』から始まるお小言を思い出し、一瞬げんなりとした。
だが、いずみは全く気にしていないように、「早く、早く」と急き立てる。
まあいいか、と一口食べて、ピリッと全身に電気が走ったような感覚になった。
「……なんだこれは」
肉の周りを覆うふわりとした物体に、調味料の味がしみ込んでいた。
「どうですか?」
神妙な顔でのぞき込んでくるいずみの顔は真剣だ。それこそ、戦いを挑んでくる兵士のような必死さに、アーレスの顔はほころぶ。
「……うまい! ものすごくうまい」
そう言うと、彼女は一気に顔を晴れ渡らせる。
アーレスの先ほどまでの重苦しい気分も、一気に吹き飛んだ。