執着求愛~一途な御曹司の滴る独占欲~

 ただ単に、祖父が社長だったというだけで、俺自身の価値はなにもかわっていないはずなのに。
 周囲の対応の変化にすべてが面倒になるほど疲弊していた。

 大学に入ってからも自分からは伊野瀬コーポレーションの社長の孫だとは言っていないのに、その噂は勝手に広まり色眼鏡で見られることが多かった。

 すべてに嫌気がさし投げやりになっていた俺に転機がおとずれたのは十八歳の誕生日。
 祖父から社会勉強のために使えとまとまった金を押し付けられ、それを元手に資産運用をしたのがきっかけだった。

 自分で考え自分の責任で金を動かす。
 自分の身分や立場は関係なく結果を出すその面白さに夢中になった。
 二年で資金を倍増させ満足した俺が増えた分も一緒にまとめて返そうとすると、『ゼロになってもいいと思って貸したのに、まさか倍にして返されるとは思わなかった。増えたぶんはお前が持っておけ』と祖父は豪快に笑った。


『お前には経営のセンスがある。もしやる気があるならうちの会社で働かないか』そう口説かれ戸惑っていると、祖父はにやりと笑って続けた。

『ただし、うちで働くとしても孫だからといって特別扱いはしないからな。入社してしばらくは、伊野瀬の身内だということは伏せて働かせる。それでもいいならうちに来い』

 乱暴にそう言われ、俄然興味が湧いた。
 周囲が俺を御曹司だと特別扱いする中、祖父がだれよりも俺の本質を見てくれたからだった。



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