real feel
「広報の上村課長が翔のことを買ってて、是非広報にってラブコール送ってたのは本当よ。だけど『はいそうですか』って簡単にエースを差し出したりしないでしょ、普通。誰だってあの人事には納得してないだろうし、ラブコール送った上村課長でさえ『本当にいいんですか?』ってすんなり決まった異動の辞令に驚いていたそうよ。半分本気、半分冗談って感じだったんじゃないかしら。まあ本音は願ったり叶ったりだったんでしょうけどね」

「主任は、納得してたんですか?」

「翔もさすがに困惑を隠せなかったみたいだけど、どうしても営業でトップに立ちたいとまでは思っていなかったようだった。広報ってのがちょっとネックだったようだけど。あんまり目立ったり注目を浴びたりするのを喜ぶタイプじゃないし。だけど流石よね、そんな得意分野とは言えない部署でもそれなりの、いや、それ以上の成果を上げるんだから。上村課長がよくそんな彼を手放す事を承諾したなって不思議でたまらないわ」

広報から教事1課への異動は、主任にとって良かったのかな。
そのおかげで私たち付き合うことになったんだから、良かったんだよね?きっと。

「だいぶ脱線してしまったけど、翔が広報に異動してすぐに私と彼は別れる事になった。私と拓実さんの関係を彼が知ってしまったからよ。翔は異動のせいで私が寂しくなって拓実さんと浮気をしたんだろうって勘違いしてた。だから『不倫なんかやめろ』って、気の迷いなら今度だけは許すから『俺だけにしろ』って言ってくれた。でも、気の迷いなんかじゃない、私の本命は翔じゃなく拓実さんだったの。自分の方が浮気だったんだってことを知って、翔は私との縁を切った。これが真実よ」

それで、主任はあんなにも頑なに高柳さんを避けてたんだ。
裏切られた相手とまた同じ部署で仕事するなんて、偶然にしても酷過ぎる。

「主任が営業から広報に異動になった理由は分かりました。でも高柳さんが『追い出された』っていうのは?」

努めて冷静に話していた彼女が『追い出された』の言葉を聞いて、表情を歪めた。
NGワードだったのか……。
でも自分で言ってたんだから。
『追い出されるなんて思ってなかった』と。

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