real feel
泣きそうな顔で高柳さんは言葉を絞り出した。

「私も邪魔になったんでしょ。本当は1年前に追い出す計画だったらしいけど、なぜか1年延期になったらしくて。もう用済みの私に拓実さんはだんだん冷たくなっていった。スッパリ切り捨てるはずが上手くいかなかったから余計に私のことが疎ましかったんでしょうね。それなのにはっきりしない態度でダラダラと関係だけは続いていたわ。ズルイのよあの人……。常務の権力を失えば終わりだから、奥さんに捨てられないように必死なんだと分かって、そんな男にもう何年もしがみ付いていたのかと自分が滑稽になったわ。それでも、そんな男でも……愛していたのよずっと」

俯いて肩を震わせる高柳さん。
泣いているのか、涙を懸命に堪えようとしているのか分からないけど……。

「それで私はどうしたらいいんですか?今まで話を聞いてきましたけど、全く私には関係のないことですし。主任だってもう高柳さんとは関わらないって言っているんです」

「当然よね。あんな酷い裏切りを簡単には許せないでしょう。でもね裏を返せば、それだけ想いが深かったってことなのよ。私のことを深く愛するがゆえの。つまり『可愛さ余って憎さ百倍』ってやつね。翔が私を避けてるのも、私が翔を傷つけたから。まだ私のことを忘れられずに苦しんでいるのね、可哀想な翔。その苦しみを癒してあげられるのは私だけよ。貴女じゃ無理なのよ、蘭さん」

何が言いたいの……。

「翔はきっと、貴女よりも私を選ぶわ。だから、翔に捨てられるかもしれないってことを覚悟しておいた方が身のためよ。念のために忠告しておいてあげるわ」

「私は、佐伯主任の言うことしか信じませんから……。主任の今の彼女は、私です。主任を幸せにできるのは、高柳さんじゃない。………私です」

元カノVS今カノ。
これが、修羅場ってやつ?
肝心の佐伯主任がこの場にいないけど、負けない!
暫くの間、睨み合うように黙ったまま、火花を散らした。

< 41 / 221 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop