real feel
参った……。

『───今日は、つけずにしませんか?』

理性がブッ飛んだ瞬間だった。
なんだこれ?なんの誘惑だ、まひろ……。

俺は一瞬だけ、ほんの一瞬だけだけど、その誘惑に負けそうになった。
悪魔の囁きかと耳を疑ってしまった……。
ハニートラップかと。
しかし、自制心が強い俺はすぐに我を取り戻したんだ。
大事な約束を、違えるわけにはいかないんだと。
俺の……否、俺たち2人の未来がかかっているんだから。
その想いが俺をギリギリで思い止まらせてくれたんだ。
俺がまひろの母さんと交わした約束が。



あれは、昨年の夏のことだった。
蘭会計事務所のBBQに参加させてもらったときに、秘境渓谷でお互いの素直な想いを伝えあった、俺とまひろ。

やっとこれで本当の意味での恋人になった……。

その日は父さんが担任しているクラスの奴等と合宿中だったのをいいことに、まひろを家に連れて行きたいと考えた。
コンビニに寄り道して、長らく必要がなかったアレを購入。
ついでに俺のブラックコーヒーとまひろのカフェオレも。
買物だけならすぐに車に戻れるんだけど、車に戻る前に俺はある人に電話をかけた。

プルルルルルル、ガチャ。

『もしもし?蘭です』

そう、相手はまひろの母さんだ。

「佐伯です。いま電話大丈夫ですか」

『ええ大丈夫ですよ。まひろはどうしてます?』

「いまコンビニに寄り道して、まひろさんは車で待ってます。あの、今夜はまひろさんの外泊の許可を頂きたいのですが。俺の家に泊まりに来てほしいんです」

『私、いま宮本家に来てるんです。あかりも一緒に。新と信は合宿でしばらく居ないし……あ、お父様、吉田先生もでしたね。ということは佐伯さんの家で今夜はまひろと2人きりってこと、ですね?』

「はい、そういうことです。許可、頂けますか」

『佐伯さん、私ね貴方がまひろと真剣に付き合いたいって言ってくれて、本当に嬉しかったのよ。もしも、もしもの話だけど、一弥くんや修一くんが「まひろと本気で付き合う」なんて言い出したらどうしようかって心配していたの……』

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