real feel
……なんてハッキリ宣言できたら、どんなにいいだろう。

「あの、小久保課長って結婚されてるんですか?」

話題を逸らそうとして課長の事を聞いてみたけど、不自然じゃなかったかな。
でも私は今、課長の補佐なんだから。
ちょっとくらい知ろうとする気持ちがあったっていいでしょ?

「課長ね、してるわよ。子供だっているし」

「蘭さん知らなかったの?奥さんはなんと!常務の娘さんなのよ!!」

ここまで大っぴらに話してくれるって事は、営業ではみんな知ってて当たり前の事実なんだ。

「私は知りませんでした。課長ってどんな人なんですか?」

「うーん……。常務の後ろ盾があるからなのか、自信満々で怖いものなしって感じだよね。あんまり親しくならない方がいいと思う。指輪してないと独身だと勘違いしちゃう人もいるよねきっと」

「若い子にモテたいんだろうね課長。指輪外してる時って大概そうだよ。蘭さんも気を付けて!」



─5月12日。

営業に来て初めて迎える週末。
この1週間、多少の緊張はあったものの仕事自体は順調だったと思う。
今日は課長に頼まれて顧客訪問のお供をすることになった。
教事1課にいた頃に取引があったお客さんで、私も一緒にとの事だった。

「1ヵ月しかないから、出来るだけいろんな経験をしたほうがいい。営業事務の女性社員は社内業務がほとんどだからね。たまには外にでるのもいいだろう?」

「まあ、気分転換にはなると思います。私も出来るだけ多くのことを吸収して、広報に戻りたいですから」

こうして課長と2人きりになるのは本意ではないけれど。
これも仕事の一環だと思えば致し方ない。

「蘭さんは素顔を見せない人だね。仮面を被るのって疲れない?」

こ、この人……!
私の事、何か知っているの?

「これが私の素顔です。こんな素顔で申し訳ありません。こればっかりはどうしようもありませんので」


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