【完】俺様彼氏は、甘く噛みつく。
おじいちゃん先生がタライに墨汁を注いで、モップを思わせる大きな筆を持ち上げた。



――書道パフォーマンス。


それは背丈ほどの大きな筆を抱えて、布団より大きい特大の半紙に文字を書くというもの。



「じゃあ山根くんからどうぞー!」


ノリのよさそうな彼なら、楽しめるんだろうな。



山根くんの書く半紙を囲うようにみんなと並んで、彼とその友達たちの楽しそうな様子を見ながら心底思う。



……やりたくない。



大きな筆を抱えた山根君は「いっきまーす」とバケツから筆を上げて文字を書き始めた。



指定された一文字をとにかく豪快に……。



跳ねや払いのときに、先生は叫ぶ。



「はぁっ!」とか「やぁ!」とか。



ノリのいい生徒は、周りを笑わせるために先生と同じようなことを叫びながら書いていく。



今も教室中は山根君やその友達が沸かしていて、あたしもつられて笑っちゃうけど。



でも自分の番になってほしくない……。


< 204 / 344 >

この作品をシェア

pagetop