【完】俺様彼氏は、甘く噛みつく。
「ハァーーーーッ!!!」


技でも決めたような高橋くんの大きな声とともに、こっちに向かって派手に飛んできた真っ黒なもの。


「わ!?」


反射的に顔を背けて、両手を顔の前に持っていった瞬間だった。



――びしゃあ!


……冷たい、感触。


見れば、真っ黒な墨汁があたしの体操着にびっしゃりと飛ばされている。


高橋くんが派手に跳ねた筆先から飛んできたんだろう。


「ご、ごめん衣川さん! 音羽くんも!」



隣を見れば音羽くんの体操着にも少し墨汁が飛んでいて。



「高橋ぃ! 元気がいいのはいいけど、もう少し落ち着きなさい!」


先生、そんなこと言いながら笑ってる。というより、みんな笑ってる。


高橋くんも笑いと謝罪でプルプルしてる。


あたしだって、笑い堪えられないけど……。


だって、高橋くん、豪快すぎるんだもん。


「……プ。はは」


え……?


音羽くんも口に手を当てながら笑っていて……。


「ねぇ……音羽くんが笑ってる!」


そんな女子の小声がかすかに聞こえた。



「ふたりとも、片づけはいいから着替えてきなさい」


そう言われてあたしたちは廊下に出る。


とりあえず真っ黒になった両腕を洗わないと。

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