【完】俺様彼氏は、甘く噛みつく。
「なにそれ? 墨汁?自分でやったの?」


「ううん、人のがかかっちゃって」


「ぷ、どうやったらかかるんだよ」




へへ、と笑いながら蛇口を閉めた。


腕に飛んだ汚れは綺麗になったけど……服が。



「はやく更衣室いかないと、次の授業間に合わないよ」



音羽くんらしくない急かすような声に「うん、今行くね」と慌てて返したら。



「首にも墨汁ついてるよ」



そう呟いた駆くんの手があたしの首元、いやもっときわどい体操着の襟の内側を指で撫でた。



「ひゃ……っ」



首を竦めるあたし。ふっと笑う駆くん。


「……服の中にも染みてる」


「え」


たしかにこんなにぐしょぐしょだから、そうかもしれない……。



駆くんは音羽くんに「今宵、次の授業遅刻するからよろしくね」と言って、あたしの手を包んだ。



……どういうこと?



腕を引かれても足を動かさないあたしに、駆くんは優しく言う。


「こっちおいで」


床に置かれたあたしのカバンも持って、更衣室とは真逆に歩き始めてしまった。


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