COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
「あ、うん。こんばんは」
いざ彼の顔を見ると、柄にもなく照れくささにも似た感情がこみ上げた。
当の彼は至って自然。
さすが、楓王子。
きっとこんなに意識してしまっているのは私だけなんだと思うと、余計に恥ずかしくなる。
私らしく、私らしく!
本日二度目。
そう自分に言い聞かせた。
ソファへ腰を下ろした彼に促されて、隣へ座る。
「あ、お腹空いてない?
食べに出る?」
緊張で、語尾が少し震えたことを悟られないように咳払いをする。
『んー、どうだろ…』
「…徳重くんは、」
何か食べたいものある?
彼のあからさまに乗り気でない返事がもどかしくて、続けた言葉。
それが私の口から出る前に
大きな手が私の指をすくい取るように握った。
驚いてそちらへ顔を上げると、
彼はその手を口元へ持っていき優しく口をつけた。
『楓』
つぶやくその唇が手に触れて、くすぐったい。
まるで射貫くように彼の目が私を見る。
『一回だけ、楓って呼んで』
やっぱり、私は彼には抗えない。