COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
そんな私の横をタクシーが通り過ぎる。
それにつられて顔を上げると、そのタクシーはマンションの前に停車した。
ドアが開くと、そこから徳重くんが姿を現した。
『昭香さん!』
彼は私に気付いていたようで、
車から降りるやいなや、こちらに向かって歩いてくる。
「誰かと一緒にいたんでしょ…?ごめんね」
『いえ、営業部の先輩なんでちょうどよかったですよ。
逃げたかったんで』
そう言うと、彼は少し困ったような笑顔を浮かべた。
部屋に電気が灯ると、見慣れた紺色のソファが目に入る。
今はただそれだけでも、心を落ち着ける材料になっていた。
『お腹空いてますか?
って言っても出前とかになっちゃいますけど』
カバンをソファのそばに置くと、私を振り返って彼が言う。
本当に彼は気遣い方が上手だ。
言葉のひとつひとつから、いつもそれを感じる。
「でもよくわかったね、駅…」
『……勘です』
彼はこちらを気に掛けるように笑うと続けた。
『…王子じゃなくて、エスパーかも。
昭香さんに会いたいって思ってたら電話が鳴った』