COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―

そんな私の横をタクシーが通り過ぎる。
それにつられて顔を上げると、そのタクシーはマンションの前に停車した。

ドアが開くと、そこから徳重くんが姿を現した。

『昭香さん!』

彼は私に気付いていたようで、
車から降りるやいなや、こちらに向かって歩いてくる。

「誰かと一緒にいたんでしょ…?ごめんね」

『いえ、営業部の先輩なんでちょうどよかったですよ。

逃げたかったんで』

そう言うと、彼は少し困ったような笑顔を浮かべた。


部屋に電気が灯ると、見慣れた紺色のソファが目に入る。
今はただそれだけでも、心を落ち着ける材料になっていた。


『お腹空いてますか?

って言っても出前とかになっちゃいますけど』

カバンをソファのそばに置くと、私を振り返って彼が言う。
本当に彼は気遣い方が上手だ。

言葉のひとつひとつから、いつもそれを感じる。

「でもよくわかったね、駅…」


『……勘です』

彼はこちらを気に掛けるように笑うと続けた。

『…王子じゃなくて、エスパーかも。
昭香さんに会いたいって思ってたら電話が鳴った』
< 168 / 449 >

この作品をシェア

pagetop