COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
私が彼に電話を掛けた時のことを思い出す。
そうか。
電車がホームに着いた時に流れるあの能天気な音楽。
あれは、あの駅でしか流れない。
私がこれ以上気負わなくていいように、彼はそれを言わないんだ。
さりげないのに、いつもしっかりと私を見ていてくれる。
こんな人を愛することができたら、どんなに幸せだろう。
また、目に何かが押し寄せるような圧がかかる。
気付くと、私は彼の胸に沈みこむように抱きついていた。
それと同時に決壊するように溢れた涙が次々と頬を伝う。
「楓…っ」
私は何度も何度も彼の名を呼んだ。
嗚咽で息が苦しくなっても、彼の名を呼び続けた。
私のそばにいてくれたのが楓でよかった。
その後も涙は止まらず、うなされるように泣き続けた。
彼は私の支離滅裂な話にただただ頷いては、時には名前を呼んでは私を抱きしめた。
私が次に目を覚ましたのはベッドの上だった。
どうやら泣き疲れてソファで眠ってしまった私をここまで運んでくれたらしい。