COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―

私はその恋愛で傷付いただけじゃない。人として最低な事をした。
自分の欲の為にひとつの家庭を壊そうとしていたんだ。

自分を(さら)け出すことが、こんなにも怖いことだと初めて知った。
ましてやそれが好きな人となれば、尚更だ。

それを全てを話し終えると、重く押し潰すような沈黙が二人を包んだ。

『…少し、待っていてください』

彼はそれだけ言い残すと、カウンターの外へ歩み出た。

嫌われてしまったかもしれない。そんな恐怖が体中を満たしていく。

でもこのまま何も言わず彼と幸せになろうなんて、都合のいい話だ。
彼を騙すようなことだけはしてないけない。

その一心で今にも崩れ落ちそうな両足に、ぐっと力を入れ直した。

耳に届いた甲高いベルの音が扉が開いたことを知らせた。
その直後、店内にけたたましい音が鳴り響いた。

その音に驚き勢いよく顔を上げると、店のシャッターを下ろす後ろ姿が目に入る。
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