COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
「このブラウンのとか…どうかな?」
『…っと、これ?』
彼は私の指差す方向を見ると、こちらを伺うようにそれを手に取ると首元へあてて見せる。
『どうですか?』
「うん、私は良いと思うけど、もし好みじゃなかったら」
『じゃあ、これにします』
私の言葉を遮るように彼はそう言うと、ネクタイを見つめて嬉しそうに笑った。
『っしゃー、これで上半期も気合入った』
そう言って颯爽とレジへ向かって歩いていく。
まただ。
いつか見た、普段の落ち着いた姿とは対照的な自然で無邪気な顔。
王子様の“隙”。
いつか本当に想い合える相手にこういう姿を見せて、二人で笑い合って。
きっとその人を楓はとても大切にする。
そんな日が来る。
彼の手を離した事は、間違いなんかじゃない。
彼の後ろ姿を眺めながら、私は心からそう思った。