COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
リリリン。
夕方、終業のチャイムが鳴ってもキーボードを叩く音は止まない。
昼過ぎに明日の朝一番に使う会議資料の作成が舞い込んでしまった。
けれど昭香先輩の迅速な判断で采配をし直したおかげで、そこまで残業はしなくて済みそうだ。
『花緒、そっちはどう?
こっちはもうすぐ終わるけど』
花緒先輩は昭香先輩の問いかけに手を止めると、思案するように視線を泳がせる。
『うーん、そうですね…
こちらはあとは私と優香ちゃんで片付くので昭香さんと理央ちゃんは先に帰ってください』
『え、でも…』
その提案に理央が戸惑うようにか細い声を出す。
『僕も手伝いますので、大丈夫です』
すかさず室長が補足をすると
昭香先輩は観念したように息を吐き出し、静かに口を開いた。
『皆、ごめんね色々。ありがと』
眉を下げて笑う昭香先輩はやっぱりいつもより何処か弱弱しい。
でもその笑顔は、紛れもない“本当”で、
今日初めて昭香先輩に触れられたような、そんな気がした。