COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―

スマートフォンを手にすると、表示されたポップアップをスルーしてロックを解除する。
すぐさまメッセージ画面を開くと、ずらりと名前が並ぶ一番上に“春田くん”の名前があった。

その横には未読のメッセージの数が表示されていて
春田くんともう一人、未読メッセージのマークが表示されている。

そこには元彼の名前が表示されていた。

その名前を目にした瞬間、背筋がすうっと冷たくなっていくような感覚に襲われる。

『…うか…』

このまま読まずに消してしまえばいい。

もう彼の事なんて忘れた。
私には春田くんがいる。


そう考える脳に逆らうように、画面に(かざ)した指は動かない。
スマートフォンを握る手がどんどん冷たくなっていく。


『…優香ちゃん!』

私の名前を呼ぶ声にはっと顔を上げると、すっかり帰り支度を済ませた花緒先輩と目が合った。
身体の緊張が解けると、無意識のうちに息を止めていた事に気付く。

『大丈夫?疲れちゃった?』

「あ…いえ」

『そろそろ帰りましょ』

その優しい笑顔に悟られないように、私はスマートフォンを鞄のポケットに押し込んだ。
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