COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
「…ただいま」
その笑顔の裏で何を思って、何に傷付いているのだろう。
せめてこの店だけは、俺だけは彼女の心の休まる場所でありたい。
そう自分に心の中で言い聞かせると、小さな彼女の背中にそっと触れた。
「さ、どうぞ」
促すように店の中へと招き入れると、扉の傍に立てかけられているシャッター棒を手に取った。
いつもと変わらない他愛ない会話。
それでも、その間ももやもやとお腹の底から立ち込め続けるその感情。
本当はもうとっくに気付いている。
この感情は、嫉妬だ。
彼女の傍にいればいるほどに、どんどん欲張りになって肥えていく気持ち。
過去を捨てて、俺“だけを”見て欲しい。
そう言って今すぐにでも抱き締めてしまいたいけれど、それは俺の都合であってそんな事をすればもっと彼女を苦しめてしまうかもしれない。
扉の鍵を掛けながら、目の前にあるガラスをちらりと見る。
そこには俺の背中をだたじっと見つめている彼女の姿が映っていた。