彼はネガティブ妄想チェリーボーイ
2人でいると、時間があっという間だ。

毎日一緒に学校行けたらいいけど、いつも家をギリギリに出て電車がホームに入ってくるのとほぼ同時に階段を駆け降りてるから、それに沙和を付き合わせたくない。

今日だけの特別な時間だ。

ホームに電車が入ってくる。
たぶん、学校の奴らもいるはずだ。

スマートに乗ってみせる。
ひと席空けて座ってみせる。

電車が俺たちの前で止まる。
ドアが開く。

正面に同じ制服の生徒が乗っていた。
俺と沙和を少し見て「あ」というような表情をする。

きもちいいーーーーーーーーー

もっと、もっと、俺たちを話題のカップルにしてくれ。

前山沙和、こいつ、俺の彼女。
俺、こいつの彼氏。

昨日、キスしちゃってまーす。

俺は計画通り左手に見えた空いてるスペースに、ひと席空けて座った。
沙和が続けて俺の右隣にストンと座る。

胸が高鳴る!

俺の右側がさりげなく沙和に触れた途端、全神経が右側に集中する。

落ち着け、落ち着け、俺ーーーーー

俺はむりやり部活の先輩たちを想う。

昨日で最後だった先輩たち。
お世話になった先輩たち。
優しかったけど、下手だった先輩たち。
結構なかなか下手だった先輩たち。

俺は脳内から、沙和に当たってる感覚を取り除く。
先輩たち一人一人の顔を思い出す。

いい感じで萎えてきた。

先輩たち、ごめんなさい。

そんな時に、なんとなく沙和が少し俺の方に体重をかけてきた。

また一気に全神経が右側に集中してしまう。

待って待って待って、一体なんのアピールだ!?
え、体密着していいよってこと!?
昨日抱き合ったから!?

頭の中が大混乱。
せっかく思い出した先輩たちが吹き飛ばされる。

うわ、沙和の腕柔らかい。
揉みたい。
触りたい。

あーーーーーー

また思い出すんだ、部活を!
夏休み中もずっと続くあの灼熱地獄を!

「今日朝練がないだけで、ずっとまた部活だー。」

俺は声に出して言ってみた。

沙和が体を密着してきてることとか、そんなんで興奮する男じゃないぜ。
俺は部活のことだけを考えてる。

また始まる地獄を必死に脳内再生させた。

沙和が「そっか」と呟く。

あれ?
なんか、すげえ寂しそうに聞こえたんですけど。

あれ?
これは沙和、寂しがってるのでは!?

俺の脳内がパンクする直前で駅に着いた。

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