素直になれない夏の終わり
「だってなっちゃん、スープスパゲティが入れられるような深い器ってラーメン丼しか持ってないからさ」
「それだって二つあったでしょ、わざわざ持ってこなくたって」
「こっちの方がいいと思ったから。ほら、白いからトマトの赤が映えるでしょ?」
「……津田くんのせいで食器棚が」
「まだ入るから大丈夫。はい、いただきます!」
チラッと窺うような津田の視線に、仕方なく夏歩も「いただきます」と続く。
ようやくの夕飯だ。まあ遅くなったのは、夏歩が中々お風呂に行かなかったせいなのだけれど。
とにかくお腹はだいぶ空いているので、夏歩は早速スプーンとフォークを手に取る。
器に入れる直前で、なんとなく顔を上げてキッチンの方を見た。
津田が来てから、明らかに物が増えたキッチン。
目の前にある器も含めて、シンクの上に作りつけられた食器棚の中は、今やほとんどが夏歩には覚えのない物ばかり。
冷蔵庫にも日に日に食材が増えていき、調味料や香辛料もやたらと充実してきている。調理台の下の引き出しを開ければ、これまでなかった調理小物もたくさん。
キッチンが徐々に津田に侵略されていっているのを、この時夏歩はひしひしと感じた。