素直になれない夏の終わり
「どうしたの?なっちゃん」
「いや、別に……」
キッチンから外した視線を器に落とし、夏歩はフォークで掬ったスパゲティをスプーンに押し付けるようにしてくるくる巻く。
たっぷりのスープに浸かっていたスパゲティはつるつる滑って巻きづらいけれど、どうにかこうにか巻き付けて、つるりとほどけてしまう前に口へと運ぶ。
追いかけるように、スプーンでトマトスープを掬って口に入れた。掬った時、スプーンに滑り込んできた輪切りのイカも一緒に。
キッチンの侵略が進めば進むほど、美味しいものが食べられる。それは、なんだか複雑だ。
「うん、やっぱりいいね。白い食器に赤いスパゲティの組み合わせ、凄くいい」
「……その感覚がよくわからない。どうせ器は食べないんだから、何に入れても同じでしょ」
それが違うんだよ、と津田が言う。
「入れるもの次第、盛り付け方次第で、ほんとは美味しいものが全然美味しくなさそうに見えたりするんだから。見た目って、結構大事なんだよ」
ふーん、と興味なさげに夏歩は返す。