素直になれない夏の終わり
コンセントの前に夏歩を座らせてドライヤーの準備をしながら、津田は懐かしそうに笑って言う。
「俺、凄くなっちゃんに求められてるって思ったら、昔も今もグッと来るものがあった」
夏歩にとっては、調理室中に響き渡るような声で津田に縋ってしまったことは、一刻も早く忘れたい、忘れて欲しい黒歴史であるのだが、声の感じからして津田にとっては楽しく嬉しい思い出であるらしい。
「早く助けに駆けつけたい気持ちと、もうちょっと俺を求めるなっちゃんを見ていたい気持ちとがせめぎ合って大変だったなあ……。あっ、高校の時の話ね。今回はほら、せめぎ合う間もなく助けに来たでしょ」
言われてみれば確かに、今回とは違い高校の調理自習の時には、いくら呼んでも津田は中々助けに来なかった。
おかげで夏歩は何度も何度も津田の名前を呼ぶはめになり、津田より先に何事かと駆けつけた教師に呆れられ、クラスメートには散々からかわれ、津田本人はしばらくの間大変嬉しそうに顔がニヤついていた。
今思い出しても、かなり腹の立つ顔だった。