素直になれない夏の終わり
その美味しかった購買のあんぱんというのが、粒あんとこしあんと黒ゴマあんと白あんと味噌あんの五つの味が楽しめるミニサイズのあんぱんで、お昼休みに購入したそれを、放課後の小腹が空いたタイミングで食べるのが夏歩は好きだった。
「俺は購買だったら断然おにぎり派かな。特に天むすは最高だった」
甘辛いタレの絡んだ海老天が具としておにぎりの中に入っているその商品は、主に男子に大人気で、人気過ぎて中々手に入らないこともあって、別名レアむすとも呼ばれていた。
「その天むすを求める飢えた男子のおかげで、開いてから三十分は購買が戦場と化すのがほんと怖かった」
「そう言えばなっちゃん、何度か半泣きで戻ってきたことあったよね」
一年生も後半、もしくは二年生に上がる頃になれば、購買がなぜ戦場と化すのかも、どれくらいその状態が続くのかもわかってくるのだが、何も知らない一年生は毎年購買で恐怖を味わうことになる。
まれに教師が出動するような事態にまでなるその三十分を、夏歩のように天むす狙いではない生徒達は“魔の三十分”と呼んで恐れていた。
そしてその三十分が過ぎた頃、天むすが売り切れる頃合を見計らって様子を窺うように集まってきた生徒達は、先の戦場のような激しさとは打って変わって和やかに穏やかに買い物を済ませて散っていく。
あの頃は恐怖の時間だったけれど、それこそ今となってはいい思い出だ。