素直になれない夏の終わり

部屋のドアは閉めて来たし、脱衣所のドアも閉まっている。だから津田に聞こえるはずはないのだけれど、夏歩はジッとドアを見つめたまま、そろそろと奥へ進む。

奥へと言ってもそれほど広くない脱衣所なので、すぐに行き止まりで足を止める。

着替えを入れておくカゴには、綺麗にたたまれたバスタオルが用意されていて、その隣には夏歩が脱いだものを入れやすいように洗濯のカゴが置かれている。

その二つをジッと見つめ、夏歩はまたため息をついた。今度は先ほどとは違い気を遣って、小さめに。


「……いい加減、素直に…………」


美織に二度も言われた言葉を、夏歩はポツリと呟く。


「そんなこと言われたって……」


私はほんとに――と、夏歩は頭の中で続ける。なぜ声に出さなかったのかは、自分でもよくわからない。

津田に聞こえるわけはないのに、聞こえたって別に困りはしないのに。何しろ、とっくの昔に本人に伝えてあることで、その後も事あるごとに言っている。

好きじゃない――それがどうしてか今回は、声にならなかった。
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