素直になれない夏の終わり
「お鍋は、熱々をふーふーしながら食べるのが醍醐味でしょ?」
それもそうなのだが、それにしたって限度があるのだ。ふーふーどころか、この鍋は少し冷めるのを待たなければ食べられない。
湯気で中身がよく見えない夏歩とは違い、作った津田はどこに何が入っているのかわかっているようで、菜箸とお玉を使ってまんべんなく区材をお椀に取り分けていく。
お馴染みの鍋の具の中に、パエリアでしかお目にかかったことのないムール貝が入っているのが、夏歩には気になった。
「はい、なっちゃん」
差し出されたお椀を受け取ってとりあえずいただきますをするも、すぐにいただくのは中々の勇気がいる。
「どうしたの?なっちゃん。エビと見つめ合っちゃって」
「……別に、エビと見つめ合ってるわけじゃない。どれからいけば被害が少なくて済むかを考えてるの」
なんと今日の鍋にはムール貝の他に頭付きのエビも入っているので、お椀を見つめていると必然的に目が合う。でも、決して好きで見つめあっているわけではない。
箸で少しずらしてエビと目が合わないように調節し、夏歩は改めてお椀の中を見つめる。
夏歩がそんな風に躊躇している間に、津田は出汁を吸ってくったりとした、どう見てもまだ熱々の白菜を美味しそうに頬張った。