素直になれない夏の終わり

謝罪の代わりにそう返して、夏歩は「美織、声かけるって言ったのに……」と独り言ちる。
それが独り言と知りつつも、津田は「声ならかけてたよ」と言った。


「“じゃあね、夏歩。お大事に”って、帰る前に」

「……聞いてない」

「なっちゃん、寝てたからね」


“声をかける”とは、起こしてくれるということではないのかと思ったけれど、もう美織は帰ってしまったのに、ここで津田に不満を述べても仕方がない。


「で、津田くんは何でここにいるの」


仕方がないので、夏歩は切り替えた。

眠る前に美織にも聞いて、そんなことは後でいいのだと返されたことを、今度は本人に問いかける。津田は「何でって……」と首を傾げてから


「後のことは、俺が美織に任されたから」


そう答えた瞬間、「違う、そうじゃない!」と夏歩に吠えられた。


「私が聞きたいのはそういうことじゃなくて、どうしてここにいるのかっていう……ああ、だから、その……なんで津田くんがここに……いや、えっと……」
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