素直になれない夏の終わり

しばらくテーブルの上のものを見つめていた夏歩は、それに手を伸ばし、掴もうとして途中で止める。

またしばらくジッと見つめ、ちょっと顔をずらして別の角度からも見つめ、そして一旦顔を上げる。

津田は既に部屋の中にいない。
でもまだ完全に出て行っていないことは、玄関のドアが開閉する音がしなかったことでわかる。

夏歩はすっくと立ちあがって、特に急ぐでもなくいつものペースでドアまで歩いて行くと、ノブを掴んで開けた。

予想通り、いや夏歩の予想よりずっと近いところに、津田は静かに立っていた。

一応背中を向けてはいるけれど、それは立ち去る直前に夏歩が追いついたというよりは、そこで立ち止まって夏歩を待っていたような感じのする背中。


「ちょっと」


本当は“おいこら”といきたかったところ、何とか堪えてそう声をかける。


「なによあれ。ひとの鍵に勝手に変なものつけるな」


わざとらしい程ゆっくりと振り返った津田は


「その感じだと、手に取ってないか。あーあ、いい案だと思ったのに」


口元が笑っていた。



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