素直になれない夏の終わり
「あっおかえり、なっちゃん。せっかくだからハグしとく?」
「しません」
「おかえりなさいのハグだよ?」
「どんなハグだってしないって言ったらしないの!」
今朝の時点で来ることは知っていたし、玄関を開けたら男物の靴があったのでいることもわかっていた。
万が一があるかもしれないとは思ったけれど、そんなものはなかった。やっぱりいた。
当たり前のようにキッチンに立って、夏歩がドアを開けて部屋に入ってきた音に反応して振り返り、ヘラっと笑ってハグの構えを取る津田が。
「外国ではこれが当たり前の挨拶だよ?」
「なら外国に移り住むのがいいんじゃない。ここは日本だから」
「日本だって、諸外国の素晴らしい文化を吸収していくうちに、それまで当たり前でなかったものがいずれ当たりま――」
突然語りだした津田を無視して、夏歩は進む。
途中で鞄を床に落とし、シュークリームの箱だけは丁寧にテーブルの上に置いて、ベッドの上にある綺麗にたたまれた部屋着を手にして、今度は来た道を戻る。