素直になれない夏の終わり

「既に胃袋はガッチリ掴まれてるみたいだし、後は時間の問題ね。あたしとしては、早めに素直になることをオススメするけど」

「別に、掴まれてないよ!」


はいはい、と美織が軽くあしらうから、夏歩は半ば意地になる。


「ほんとに違うってば!出されたものを残すのは勿体ないなって思うから食べてるだけで、津田くんの料理が気に入ってるわけじゃない。断じてそうじゃない!」

「全力否定は逆に怪しいわよ?」


そう言われると今度はどうしたらいいかわからなくて、夏歩は口を開けたままで固まる。
しばらくそのまま言葉を探して、何度か口の形を変えたけれど、結局何も言えずに終わった。


「夏歩ってば、面白いぐらいに混乱してるわね。それって、やっぱり図星だから?」

「違う!!」


全力で否定すればするだけ、美織が可笑しそうに笑う。
なんだか遊ばれているような気がしてきて、夏歩はムスッとした表情で美織を軽く睨んだ。

そんな顔しないで、夏歩。とどうみても笑いを堪えながら言って、美織はカップスープが入っていたのと同じコンビニの袋からチョコレートの箱を取り出す。

封を切って、「はい」と夏歩に差し出した。


「お詫び。夏歩から見て右から順に、コーヒー、ミルクティー、キャラメル、ミルクチョコね」


好きなのどうぞ、と促され、夏歩は「……じゃあ、遠慮なく」と手を伸ばす。
< 98 / 365 >

この作品をシェア

pagetop