素直になれない夏の終わり

しばらく迷うように手を動かして、夏歩はミルクティー味を選び取った。
夏歩が選び終わったところで箱を自分の方に戻した美織も、一つ選んで口に入れる。

しばし二人は、無言でチョコレートを味わった。

黙っていると、休憩室内の他のテーブルでの会話が、聞くともなしに耳に入ってくる。談笑だったり、悩み相談だったり、仕事の軽い打ち合わせだったり――。

夏歩がぼんやりとそれを聞いていたら、不意に美織が口を開いた。それも、ぽそりと呟くようにして。


「夏歩ってさ、ほんとは津田のことをどう思ってるの?」


聞こえていなかったわけじゃないけれど、夏歩は「ん?」と聞き返すように首を傾げる。
美織はもう一度、同じ問いを繰り返した。今度は先ほどよりゆっくりと、丁寧に。

だから、流石にもう一度聞き返すことは出来なくて、夏歩は問われたことについて考える。


「……嫌い、かと言われたら何とも頷き難いものがあるけど、かと言って好きかと言われたら、それはそれでまた頷きづらいと言うか、頷きたくないと言うか……」


悩みながら、言葉を探しながら、夏歩は出来るだけ素直に答えようと努力する。
相手が津田ならこうはいかないけれど、美織が相手ならば素直になる努力もする。

それでも、何とも曖昧で、結局どちらなのかよくわからない返答しか出来ない夏歩に、美織は呆れたように小さく笑った。
< 99 / 365 >

この作品をシェア

pagetop