明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
私はうしろ髪を引かれる思いで、佐木さんのもとを去った。
そして一旦家に戻り、身の回りのものだけを持ち、東京に向かう電車に飛び乗った。
佐木さんが紹介してくれた『津田(つだ)紡績』が東京にあるからだ。
まさか、また東京に舞い戻る日が来るとは思わなかったが、直正を連れての求職は大変なので、とりあえず頼ろうと思っていた。
私は早速、本所錦糸(ほんじょきんし)町にある津田紡績の本社を尋ねた。
警視庁からさほど遠くなく、ついそちらの方角に目が行ってしまう。
けれども、信吾さんと二度と会うことは許されない。
父はそれだけの罪を犯したのだ。
そしてそれを告発できなかった私も同様。
信吾さんに会う資格なんてない。
津田紡績の立派な洋風建築は、そのまま財の大きさを表しているよう。
「お母さま、ここどこ?」
直正が不安げに私を見上げている。
「お母さまね、これから違うところでお仕事することになったの。いい子できる?」