明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~

荒川(あらかわ)に近い亀戸(かめいど)にある津田紡績の工場は想像以上の大きさだった。

信吾さんと逃げ、そして結ばれた木場(きば)の宿屋から遠くなく、またここに帰ってきたのだと胸がいっぱいになる。


「最初は簡単な仕事からお教えしますので心配はいりません。社長が女工こそ財産という考えの持ち主でして、賃金も他より弾みますし、昼食もこちらで用意します。直正くんの分は少しお代をいただきますが……」


なんてよい条件なのだろう。

広い工場内には三百人近くの女性が働いているが、もっと過酷な労働を覚悟してきたのに皆生き生きとしている。


「本当に助かります」
「いえ。佐木の推薦ですし、大切にさせていただきますよ。少し事情はお聞きしましたので、なにかあれば頼ってください」


ということは父のことも聞いたのだ。
それなのに受け入れてくれたとは。

温かな言葉に、目頭が熱くなる。

佐木さんも一ノ瀬さんも本当にいい人だ。
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