明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
「八重」
しばらく直正の寝顔を見ていると、信吾さんに呼ばれた。
「はい」
「お前も入れ」
「ありがとうございます」
髪から水滴を滴らせ、襟元がはだけ気味の浴衣姿に心臓が跳ねてしてしまい、声が小さくなる。
これほど無防備な姿を見たのは、結ばれたあのときだけだ。
うつむき加減のまま彼の前から去り、私も風呂に浸かった。
風呂から出ると、物音が聞こえたのか信吾さんに呼ばれて、今度は玄関を挟んで西側の部屋へと向かう。
「お風呂、ありがとうございました」
やはり十二畳ある部屋の入口で正座をして頭を下げる。
すると「中に入りなさい」と促され、緊張しながら足を踏み入れた。
彼はここを自分の部屋として利用しているようだ。
小さな机には何冊もの書籍が置かれていて、彼はその前に座っていた。
再び正座をして頭を下げる。
「こんなに親切にしていただいて……」
サーベルを向けられたとき、彼の激しい憎しみを感じて死をも覚悟しなければと思った。
しかし同時に、直正を残して死ねないとも。