明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
真田の家でこうした苦労も知らずに生きていた頃より、心は充実していた。
「皆、よく頑張ってくれているね。先月は輸出量が過去最高をはじき出したよ。それもここで真面目に働いてくれる君たちのおかげだ」
私たちに声をかけてくれたのは、なんと津田紡績の先頭に立つ津田(つだ)社長。
おそらく信吾さんより七、八歳上だと思う。
彼は若くして政財界に顔が利き、津田紡績をここ数年で国内のどの紡績会社も太刀打ちできないほどの規模まで拡大した優秀な人物だ。
背は信吾さんに負けないほど高く、ビシッと背広を着こなして颯爽と歩くさまに憧れる女工があとを絶たないが、素敵な奥さまとの間にお子さんがふたりいるのだとか。
そんな雲の上の人なのに、こうして時々工場に顔を出し、私たちの勤務状況を確認して、必ずいたわりの言葉をくれる。
津田社長とともに顔を出した一ノ瀬さんは、社長の右腕と言われていて、一目を置かれている。
こんな人を紹介してくれた佐木さんには感謝しかない。