明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
「医者か……。あっ、一ノ瀬さんが知り合いの医者が訪ねてくると言っていたはずだ。聞いてあげるからそこに座って待っていて」
藤原さんはすぐに本社に電話をしてくれた。
「真田さん、家に往診してくれるそうだ。住所教えて」
「住所……」
信吾さんの家を借りていることは誰にも明かしていないので一瞬躊躇したが、目を閉じて荒い呼吸を繰り返している直正を見ていたら、迷っている時間はない。
私は藤原さんに住所を伝えた。
「人力車で帰りなさい」
「そうします」
貧しい身の上ではいつもは到底使えない人力車。
でも、一刻も早く直正を温めてあげたい一心で奮発した。
家に駆け込み、布団に寝かせる。
直正の首筋に触れると、先ほどとは比べ物にならないほど熱が上がっていた。
「気づいてあげられなくてごめんね」
横須賀時代もよく熱を出すことはあったが、なにせ勤務先が病院だったため、佐木さんをはじめとしたお医者さまや看護婦さんたちが面倒を見てくれたので心強かった。