明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
「直正。手を洗うぞ」
彼の子だと伝えてから、ますます距離が縮まったように感じる。
直正は父だと知らないが、親子にしか見えないふたりの様子に頬が緩んだ。
それから三人で食卓を囲んだ。
特に贅沢なものが並んでいるわけではないのに、直正の笑顔が弾けている。
「やっぱり八重の卵焼きはうまい」
「黒木さんの苦いもん」
「ちょっと、直正。作っていただいたんだから……」
遠慮なく文句を言う直正をたしなめたが、「苦かったなぁ」と信吾さんまで笑っている。
「八重が寝込んでも大丈夫なように、ふたりで料理の練習をしようか」
「うん。僕、ご飯は混ぜられるよ」
直正の言う〝ご飯を混ぜる〟は米を洗うのを手伝えるということだ。
「それはすごいな。俺よりできる」
それなのに信吾さんは大げさに褒めて直正の頭を撫でた。
普通の家族ならあたり前の光景かもしれない。
しかしあきらめていたからか目頭が熱くなる。