明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
「実は、この一カ月は実家に足を運んでいた。話し合いが平行線で……」
「話し合い?」
彼は表情を引き締めて箸を置く。
「結婚をと言われている。黒木家の跡取りは俺だけだ。そろそろ子をと」
「え……」
『お前もこんな気持ちだったんだな』と言ったのは、勝手に縁談を進められて途方にくれていたからだったのか。
私が清水家に嫁ぐように強制されたときと同じように。
「警視庁も辞して、造船を継げとも言われている。だが俺は、警察の仕事に誇りを持っている。八重と出会って、その想いは強くなった」
「私と?」
どうして?
「日比谷の事件のあと八重は、『なんの苦労もせず生活ができていることのありがたさを噛みしめておりました』と言っていた。それは俺も同じ。でも、一部の特権階級の人間だけでなく、すべての人が幸せに暮らせるように警察官として市民生活を守りたい」
なんて素敵な志なのだろう。
実家の稼業を継いだほうがおそらく楽に生きていけるというのに。