明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
「卑しい家の出か? それとも娼妓でも囲ったか?」
「どちらも違います。しかし、本人を前によくもそんなひどいことをおっしゃいますね」
信吾さんは険しい表情で言い返している。
私を思ってのことだろう。
「八重、ありがとう。下がっていていいよ」
「はい」
信吾さんだけを矢面に立たせるのは忍びないが、ここに直正が入ってきてしまっても困る。
それに、もしかして私がいるとより話がこじれるかもしれないと部屋を出ようとした。
「八重? 聞いたことがある名だ。……まさか、あのときの女か?」
駆け落ちのことを言っているのだ。
「そうです。私は彼女しか愛せません」
「お前は、正気か? あのときの女なら、真田の娘ではないのか?」
お父さまは信吾さんに鬼の形相で迫るが、もっともだ。
大切な娘を見捨てた男の家族なのだから。
「そうです。彼女は真田八重と言います」
「ふざけるな!」