明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
信吾さんの寛大な心にうなずき、彼が抱き上げた直正を見つめる。
直正はもうすっかり信吾さんに抱かれ慣れていて、うれしそうだ。
黒木家は、真田家よりずっと大きなお屋敷だった。
士族上がりのため新華族なんて軽んじられることもある。
けれど、造船業で大成功しているので、旧華族よりずっと贅沢な暮らしをしているように見える。
立派な格子戸の門をくぐると、大きな松が君臨する広い庭。
きちんと剪定されていて、手入れが行き届いている。
そして目の前には数寄屋造りの大きな屋敷。
足を止めて深呼吸すると、庭の一角から男性が歩み寄ってきた。
「信吾さん」
「章一(しょういち)か。ちょうどいい。直正が鯉に餌をやりたいと言っていて、一緒にいてやってくれないか?」
「もちろんですが……」
章一と呼ばれた短髪の男性は、おそらく私より少し年上だろう。
彼は信吾さんに抱かれる直正を見て首を傾げている。