明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~

「まいりましょうか」
「はい」


差し出された手に手を重ね、人力車に乗り込んだ。

彼が「ここから少し離れましょう」と提案したのは、私が嘘をついて家を出てきたと知っているからに違いない。

向かった先は、上野にある大きな公園だった。

ここまで足を伸ばしたのは初めてだったが、家から離れたのでのびのびできる。


「たまには羽を伸ばしてください。誰も見ておりませんから。あっ、私は除いて」


クスリと笑みを漏らす黒木さんは、私が窮屈な生活をしていると告白したから気を使ってくれたのだ。


「はい。黒木さんも」
「そうします」


緊張感張り詰める警察の仕事では、精神も疲れるに違いない。
つかの間の休息なら体だけでなく心も休めてほしい。


「あとで食事に行きましょう。八重さん、とお呼びしてもいいでしょうか?」
「はい、もちろん」


父と兄以外の男性に下の名を呼ばれたのは初めてで、ドクンと心臓が大きな音を立てる。
しかし少しも嫌ではない。
< 34 / 284 >

この作品をシェア

pagetop