明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
「まいりましょうか」
「はい」
差し出された手に手を重ね、人力車に乗り込んだ。
彼が「ここから少し離れましょう」と提案したのは、私が嘘をついて家を出てきたと知っているからに違いない。
向かった先は、上野にある大きな公園だった。
ここまで足を伸ばしたのは初めてだったが、家から離れたのでのびのびできる。
「たまには羽を伸ばしてください。誰も見ておりませんから。あっ、私は除いて」
クスリと笑みを漏らす黒木さんは、私が窮屈な生活をしていると告白したから気を使ってくれたのだ。
「はい。黒木さんも」
「そうします」
緊張感張り詰める警察の仕事では、精神も疲れるに違いない。
つかの間の休息なら体だけでなく心も休めてほしい。
「あとで食事に行きましょう。八重さん、とお呼びしてもいいでしょうか?」
「はい、もちろん」
父と兄以外の男性に下の名を呼ばれたのは初めてで、ドクンと心臓が大きな音を立てる。
しかし少しも嫌ではない。