My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
「なんで、普通のモンスターは近寄れないんじゃないの!?」
私は思わずもう一度ビアンカに抱きつき叫んでいた。
ビアンカは特に動じることもなく静かにモンスターを見下ろしていたが、モンスターの方は自分よりも大きなビアンカにたじろぐどころか今にも飛びかかって来そうな体勢で喉を鳴らしこちらを威嚇している。
「こいつが普通じゃねぇってことだろ」
ラグが舌打ちしながら腰からナイフを抜く。ということはまたしても術を使う気はないということだ。
(セリーンはいないのに)
そんな疑問が頭を過った時だ。
「カノン、歌え!」
「えぇ!?」
まさか指名されるとは思っていなかった私は思わず確認するように自分を指差していた。
「こいつらを眠らせろ!」
「で、でも」
自信はあった。歌うのはフィエール相手に子守唄を歌った時以来となるが、ハミングでも今目の前にいるモンスターよりも身体の大きなアレキサンダーが足をもつれさせたのだ。
しかし金髪の男の人のことを訊くのではないのだろうか。
それにお菓子泥棒と言えど人前だ。まずいのではないだろうか。案の定彼女はこちらの会話を聞き目を見開いている。
「早くしろ!」
ラグの苛ついたような怒鳴り声に応えるようにモンスターが鋭い咆哮を上げた。私が慌てて息を吸った、そのときだ。
「ツェリ、ちょっと待って!」
上がったその声に私は歌声と共に吐き出そうとしていた息を止めた。
同時にモンスターも威嚇の体勢を止め不思議そうに彼女を見上げた。――ツェリとはモンスターの名前だろうか。
彼女は私を見ながらゆっくりとモンスターの前に出た。その表情に先ほどまでの硬さは無い。
なぜか私の方に近寄ってくる彼女にごくりと喉が鳴る。無意識のうちにビアンカのうろこを強く掴んでいると、まだナイフを手にしたラグが前に出てくれた。
「話を聞く気になったのか?」
「今お前“歌”って言ったな」
ラグが言葉に詰まったのがわかった。
「……だったらなんだ」
すると、彼女はラグではなく私の方を見てはっきりと言った。
「お前、もしかしてセイレーンなのか?」