拝啓ヒトラーさん
「なんだよ。春さんは俺のこと好きじゃないの」
「いやそう聞かれても、家族だし普通に好きだけど」
「じゃあ春さんもブラコンだ」
いや、そうはならんやろ。
思わず心の関西人がツッコミを入れたが、めんどくさすぎて声には出さなかった。
弟の広は、基本的になんでもできる優秀なイケメンだ。
しかしその実、どこか抜けているところがある。
彼の辞書に「反抗期・思春期」の類は載ってないのだろう。
広は今、15歳だ。
普通15歳といえば家族がうっとおしくなる頃だろうに。いわゆる反抗期。
15とは思えないくらい広は素直で、曲がっていなかった。正しい人間ではあるが、15歳男子としては正しくない気がする。
チェッカーズのギザギザハートの子守唄でも「15で不良と呼ばれたよ」なんて歌詞もあるのに。
尾崎豊が歌った15の夜では盗んだバイクで走り出していたな。
私は広の濡れた黒髪を見た。
短く刈られ、高校球児のお手本というには長すぎるが、不良には到底見えない。
別に不良になってほしいわけではないが、ちょっとタバコに興味を示したり、髪を染めたくなったりしないのだろうか。
80年代の15歳と今の15歳は違うということなのか。
「でもさ、月1で連絡はちょっとうざいよ。大学生になったんだから家族と離れたくもなるんだって」
「そんなもんかなぁ」
楓ちゃんは私たちの家の事情なんか気にもせずズケズケと自分の言いたいことを言う。
私は楓ちゃんのこのあけすけな素直さが好きだった。
変に気を使われるよりも、自分の物差しをガンガン伝えてくれるほうが分かりやすいから。