拝啓ヒトラーさん



「あ、大須賀先生の歌聞こえてきたね」「なんだっけこの曲」「あずさ2号じゃない?」「あー、8時ちょうどのあずさ2号で〜のやつね」「もうその時間のあずさ2号なくなったらしいけどね」

”8時ちょうどのあずさ2号で
わたしはわたしはあなたから旅立ちます”

3年の岩田先輩、広くんに告白したらしいよ、へぇ、でも振られたんだって、うっそだぁ、岩田先輩レベルの美人でもダメなの?広くんちょっと調子乗ってるんじゃない、そりゃー調子のるって、1年でエースで甲子園行けちゃうかもってとこまで引っ張ってるんだから、っていうかさぁ、ピッチャーってずるいよね、どうやったってカッコイイもん

楓ちゃんと広の声。
不明瞭な大須賀先生の声。
右斜め後ろを歩く2年生の女の子たちの声。
すべてが耳に流れ込んでくる。

別に、広は調子に乗ってるわけじゃない、と私は思う。
ただ、なんでもできる弟だからちょっと鈍感だったりデリカシーがなかったりするけど。

大須賀先生はどうして体育祭であずさ2号を歌おうなんて思ったのだろう。
昭和の歌なんて、今の高校生の何割が知っているんだろうか。
何年前の歌だ。

あずさ2号、1977年3月25日リリース、狩人のシングル、アルバムは『出逢った人に』、B面は『季節が変わる前に』、第19回日本レコード大賞新人賞受賞、最高順位週間4位、年間15位、音楽番組「レッツゴーヤング」でヤングヒットソングとして77年4月から流され・・・

「春さん、なに考えてるの?」

広の声。
質問している。私に。

「広と、大須賀先生と、あずさ2号のこと、考えてる」

私の返事に、広は「ふぅん」楓ちゃんは「へぇ」と応えた。
広は私が言ったことの本当の意味を分かっているだろう。
楓ちゃんはイマイチ納得していない様子だ。

< 17 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop