拝啓ヒトラーさん
体育館が近くなってきた。
大須賀先生の声も大きく聞こえてくる。
人が増えた。
何人だろう、200人はいそう。
みんな大須賀先生の歌声をバックミュージックに、好き勝手なことを話している。
明日からまた授業とかだるいんだけどねぇ3組の百合と有賀くんさっき付き合ったんだってすごーい体育祭マジックじゃん毎年何組かは結ばれるよねなぁ今日めっちゃ暑かったよな三瓶のやつ熱中症だってさやべぇじゃんあいつ明後日ラグビーの試合あるのにあー女マネほしいなんで野球部だけ女マネ多いんだよ大須賀先生かっこいい春さん俺ポカリ飲みたいねぇ自販機行こうよ春さんってば
「春さん」
ぐいっと腕を捕まれ、一気に目がさめる。
弟が私を呼んでいる。
顔を上げれば、怒った顔の弟。
隣には苦笑いの楓ちゃん。
「やっぱさ、情報が多い場所での春さんは俺、嫌いだよ。集中するのはいいけど、俺の話も聞いて」
ムスッとした広の顔。
いつまでも構ってもらいたい甘えた気質の弟の顔だ。
私はぼんやりしたまま頷く。
そのまま、腕を引っ張る広に連れられ歩いていく。
「やっぱりシスコンだよなぁ」と呆れたような目で見てくる楓ちゃんがその場には残された。