月夜に笑った悪魔
彼が続けて口を開くから、私は耳を傾けた。
「……昔、俺と母親が乗ってた車に月城組の車が横から突っ込んで来たことがあってさ。
その時、母親が俺のこと庇ったんだよ。血まみれの母親、冷たくなっていくところを直接肌で感じて、俺はなにもできなくて……母親は死んだ」
少し低くなる声のトーン。
それは……ショッピングモールにいた時に絵音から聞いた“仕組まれた事件”だろうか。
「それがあってから暗いところで後ろから急に抱きつかれるのは、当時のこと思い出すからだめになって。
つーかそれだけじゃなくて、車にも乗れなくなったし、救急車のサイレン聞くだけでも無理だし、左耳がよく聞こえなくなったし……って、意外とめんどくせぇだろ?」
これからなんか気ぃ使わせたらわりぃな、と最後に謝る彼。
辛い過去。
そんなに思い出すくらいなら言うのだって辛いはずなのに……暁が自ら話してくれた。
……左耳、よく聞こえなかったんだ。
……暁が謝ることでもないのに。
「辛い時は頼ってね……。私は暁のそばにいるから──ひゃっ」
大切なことを伝えようとしたのに。
急に私の首元に落ちてきた、冷たい雫が邪魔をした。