月夜に笑った悪魔







数十分して、やっっと目をつけていた小太りの男性が1人になった。





「ごめん、私もう行くから」


声をかけられていた男性に手を振って、私は早歩き。


ここから頑張らなくちゃいけないのに……なんか、もう体も心も疲れた。


ヒールでジャンプなんかするもんじゃない。こんなに足が痛くなるとは思わなかったや……。
心が疲れたのは、たくさんの男性から話しかけられて、適当に話を合わせていたから。



……おそらく、もう二度と私はクラブに行くことはないだろう。
この空間は、私に合わなすぎる。







深呼吸をして、気持ちを入れ替えて。




「こんばんは。もしよかったらなんですが、少しお話しませんか?」


自分でも気持ち悪いくらいの、いつもより高めの声。
今できる1番の笑顔も作って、ターゲットに声をかけた。



「まさかきみみたいな可愛い子から声をかけてくれるなんて……。どうしたんだい?」



上から下までよく私を見たあとに、笑顔で返してくれる男性。

……その視線が気持ち悪くて今すぐ走って逃げ出したい気持ちだったが、必死で抑えた。



「お聞きしたいことがあって……」
「あっちで話そうか」


「はい!」


男性が指をさしたのはカウンター。
私は大きく頷いて、そこへと移動。

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