月夜に笑った悪魔
瞬間、鳥肌が立つ。
反射的にうしろに一歩さがってしまいそうになったが、なんとか耐える。
「喜んで……!」
顔に出さないように笑顔を必死に作って頷けば、腰にまわされた手。
手が添えられたのは、腰より少し下。
……触る気満々じゃないか、と思うくらい。
男性の顔を見ればにこりと笑っていたから、私も笑顔を返して、2人で移動。
……やばい。
これ以上近づくと顔に出ちゃいそう。
笑顔が消える……!
男性のあとについて行けば、立ちどまったのは“VIP”と書かれた綺麗なドアの前。
……VIPとは、いったいなんなのか。
人生ではじめてクラブに来た私は、今さら疑問に思う。
男性がドアを開ければ、見えた部屋の中。
ガラステーブルを囲むように、黒色の革製のソファが4つ。
……見るからに、すごそうな部屋。
「さぁ、入って入って」
背中を軽く押されて、中へと入るようにと促される。
「し、失礼します」
私がゆっくり足を踏み入れると、閉められたドア。
あんなにうるさく聞こえていた音が、だいぶ聞こえなくなる。
次に、「座って」と言われるから、私は大人しくソファへと腰をおろした。