トルコキキョウ 〜奈月と流奈を繋ぐ花〜


「あらー!奈月ちゃん!いらっしゃい!って、こんなに荷物重かったでしょー?」

流奈の家に着いてチャイムを鳴らせば、エプロンをつけた流奈のお母さんが笑顔で迎えてくれた。

流奈から聞かされる怖いお母さんなんて想像もつかなくて、優しそうな姿が感じられる。

「いや、大丈夫です!!」

そう言いながら、手や腕には荷物の重さでビッシリと赤い線がついているのを確認しながら、案外オムツも重たいもんだなと思う。

「ぶっ!!奈月~なにその大荷物~!!」

「オムツ……これから沢山使うでしょ?だから」

息を切らしながら私は玄関先に置くと「おじゃまします」と流奈の家へとお邪魔した。

「奈月、ありがとう」

ローファーを揃えていると、後ろから流奈の言葉が聞こえてきて、その言葉だけで温かい気持ちになる。


そして何より、はち切れそうになっているお腹を見ると、16歳で出産を決めた流奈はやっぱり感心する。

「ずいぶん苦しそうね」

「まだまだ、なんのこれしき~!!」

笑顔で、大きなお腹を優しく撫でる姿に、もう沢山の愛が伝わってくる。

思えば……流奈は弱音を吐いたことはなかった。

悪阻もあっただろうし、色々不安もあっただろうに……

それなのに、一度もそんな言葉を聞くこともなく、きっとこのまま出産へと繋げてしまうのだろうと思う。

「しっかし、こんなに沢山買ってきて~お金使わせちゃったね……」

申し訳なさそうに言ってくる流奈に「ぜんぜんだよ!!」なんて言うと、「わぁ~美味しそうな果物まで~!!!」と、荷物を半分持ってくれた瞬間に大喜びしている流奈を見て、バイトしていて良かったと初めて思えた日でもあった。


「奈月ちゃん……今度は手ぶらで来てちょうだいね!さあ、上がって上がってー!ドーナツ買ってきたから食べて」

私はお邪魔すると、おばさんが用意してくれたドーナツを食べて貴重な流奈との時間を楽しんでいた。

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