トルコキキョウ 〜奈月と流奈を繋ぐ花〜
「そろそろ帰りな」
そのめぐみの一言で、私はその席から立つと、目の前に座っていた男は上目遣いで私をやっと視界に入れてきた。
この席に座っていてどれくらいの時間、同じ空気を吸っていただろうか。
そう考えるだけで吐き気がする。
目の前に置かれていたフォークを一瞬だけ握ったが、隣にいためぐみが「どした?奈月」なんて言葉をかけてきたもんだから、それから静かに手をはなした。
危うく、フォークの使い道を間違える所だったと、大きく深呼吸すると「お先に失礼します」と小さく呟くと、顔を上げた、目の前の憎き男に微笑んだ。
私の憤怒の形相にびっくりしたのか、凄い顔をして私から目を反らすことが出来ないでいる憎き男に再び笑顔を向けると少しだけ震えているようにも見えた。
「気を付けてね」
「ありがとう」
そうめぐみに言い残し、私は家路へと向かった。
本当は、このまま何処か遠くへ行ってしまいたいと思った。
悲しみに浸りながらも、私の感情は"怒"の感情で支配されていて、おばあちゃんの死と心から向きあえていないような気がして、そんな自分にも嫌気がさしてしまう。
何も考えたりしなかった。
おばあちゃんの葬儀にまさかアイツが来るなんてことを
親戚でありながらも、そんなことすら考えずにいたのに。
アイツは考えたりしたのだろうか……
そんなことを考えながらも、私はどこにも寄らずに真っ直ぐ家に帰宅して、約束どおり家の電話からめぐみに帰宅を伝えた。
「今ついた。お父さんにも言っといて!体調悪いから風呂はいってもう寝るね」
「分かった。戸締りしちゃんとしなさいよ」
「分かったよ」そう伝えると、静かに電話を切った。