トルコキキョウ 〜奈月と流奈を繋ぐ花〜
気持ちの良い四月の風は桜の匂いを含んで彷徨いながら、私の首筋を撫でている。
そこにはもう後戻りはしない確かなぬくもりさえも感じる。
上を見あげると綺麗な青い空が私を迎えてくれていて両手を広げて思い切り息を吸い込むと、私の足取りはとても軽かった。
昨日の夜から半身浴をして顔にはたっぷりと化粧水を含んだパックをあて、全身鏡の前で何度もファッションショーをしては今日の洋服を1時間もかけて選んだ。
駅に着いてからは、ドーナツを買い、片方の手にはいつか買ったものがちゃんと握られていた。
そう、今日は大切な人に会う約束をしている。
それが久しぶりでなんだか朝からニヤけた顔もなかなか戻らないから困ったもんだ。
「待ってたよ」
きっと彼女も同じだったに違いない。
そして私のことを待ちきれなかったのだろう。
家の外、いや最寄り駅近くまで歩いて私を迎えに来ていた。
「奈月………」
「流奈………」
流奈は変わっていた。
そう、ベビーカーを押している。
私の中の流奈からのイメージとは相当かけ離れていてなんだか変な感じだった。
それなのに、違和感がないのはこの会わない期間で流奈が母親になっていたからであろう。
私達はそう一言だけ交わし笑顔で再会を果たした。
私は恐る恐るベビーカーに近づくと、そこには気持ちよさそうにお昼寝をしている愛の姿があった。
「初めまして、愛っ………」
その瞬間、感極まって泣きそうになるのをグッとこらえていた。
外の爽やかな風を感じながら気持ちよさそうに寝ている顔をみているだけで癒されてしまう。
「可愛いね、愛……」
その時、流奈も私の目線に合わせるようにしゃがみ込むと「あたしに似て可愛いでしょ」そう満足そうに顔をころばせた。
「え、それはどうだか~!」
そんな私の言葉に「相変わらず素直じゃないんだから~!!」と得意げな流奈を見て私は吹き出して笑った。