エリート御曹司と愛され束縛同居
「忙しいところ、突然呼び出して悪かったね。今日は仕事というより孫の話なんだよ」

少し困ったように眉尻を下げる植戸様に遥さんが穏やかに頷く。

桃子(ももこ)は君に大変惹かれているようなのだが……」

重々しい口調で話される内容に氷塊を呑み込んだような気持になった。


……これって縁談を打診されているんだよね……?


そんな話はドラマかなにかだけの出来事だと思っていた。

この人は誰が見ても魅力的な男性で、こんな申し出は珍しいものではなく当たり前のようなもの。それでもまさか目の前で悲しい現実を見せつけられるとは予想していなかった。


……ちょっと待って……悲しい?


ごく自然に湧き上がった自分の感情に動揺する。

頭の中に靄がかかったようにふたりの会話をはっきりと理解できない。

「植戸様、お話は大変有難く思っております」

返答に心が凍りついていく。

ドクンドクンと大きすぎる鼓動が胸を打って、膝の上に置いた手が震えだす。

動揺してはいけない。なにか約束をしたわけではないし、好きだと言われたわけでもない。

所詮私とは遠い世界の人なのだ。


この間の出来事はただの気まぐれ、圭太の幼馴染みで行く当てのないどうしようもない同居人に親切にしてくれただけで一般市民の女性が王子様を射止めるなんてお伽噺の中だけだ。


何度もそう言い聞かせたでしょう?


もうこれ以上考えてはいけない。

今ならまだこの気持ちを勘違いで見過ごせる。

それなのに、胸が鋭い刃物で切り裂かれたようにジクジク痛む。

できるなら今すぐこの場から走って逃げ出したい。
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